パートやアルバイトのほか、フリーランスや個人事業主など、さまざまな形態で副業する人が増えています。国の「働き方改革」の促進のほか、企業が主体となり多様な働き方を容認する傾向がみられるようになったのも理由にあるでしょう。
ここで、疑問として挙がりやすいのが、副業をする場合、「会社員も個人事業主のように開業届が必要なのか?」。不安ですよね。この記事では、会社員の副業と開業届の関係、開業届のメリット・デメリットを調べてみました。
開業届と副業で提出が必要になるケース?
新たに事業を開始したとき、または事業用に事務所や事業所を新設したときなどに、所轄の税務署に開業届が必要になります。
開業届の概要については、今後、調べていきます。
「事業」とは、基本的に、資産の譲渡などで対価を得ることであり、それが独立して、一時的なものでなく継続的に行われるもののこと。例えば、以下のような副業が事業にあたるもの、あるいは事業にならないものと考えられます。
事業になるケース
- 投資用に賃貸物件を複数件所有している(アパートの場合、10室以上)
- 会社と別にフリーで仕事を継続的に行っている
- 講師で複数の生徒を抱え毎週講義を行っている
事業にならないケース
- 不要になったもの(生活用動産等以外)をヤフオク等で売る
- 年に何回かハンドメイド商品のネット販売する
- 趣味程度にサイトで広告収入を得ている
事業を起こす「起業」や、会社から独り立ちする「独立」は、開業と共通する部分もありますが、厳密には異なります。起業は会社自体を起こす場合もあります。また、独立では会社を辞めることもありますので、開業届の必要な個人事業主とは限らず、法人の代表になる場合もあるためです。ですので、開業は、一般的には個人事業主としての事業の開始を意味します。
会社員が開業届を提出するには
副業をする会社員が開業届を提出するときのポイント。
本業と副業では開業届の提出に違いはあるのか?
本業で開業届をする、副業で開業届をする場合、開業届の提出に違いはありません。どちらの場合も、「個人事業の開業・廃業等届出書」(開業届)の必要な欄を埋めて、開業から1カ月以内に所轄の税務署長に提出します。
この際、青色申告を選択する場合は、同時に「所得税の青色申告承認申請書」も提出することが多いようです。青色申告の申請は1月15日までなら同じ年の3月15日、1月16日以降なら事業の開始から2カ月以内となっており、開業届よりも期限は長いですが、申請を忘れてしまうこと考えると同時に提出した方が効率的です。
【書き方】自宅で副業を始めた場合は?
在宅ワーク、アフィリエイト、動画広告収入等自宅で副業をする場合、開業届は、納税地に自宅の住所や電話番号を記入して、「住所地」を選択します。なお、「居所地」は、国内に住所がない人、国内に住所はあるものの住所地とは違う居所で仕事をする人が選択します。
【書き方】副業別の職業欄や事業の概要の書き方
「職業」や「事業の概要」を記入する欄の書き方に決まりはありませんが、職業には職業名を、事業の概要には仕事内容を記載します。会社員の副業を例に、書き方の例をいくつか紹介します。
Case1.投資用マンションを複数所有し運用している
職業:不動産賃貸業
事業の概要:賃貸マンションの経営・管理
Case2.フリーで動画編集の仕事を副業にしている
職業:動画クリエーター
事業の概要:動画制作
Case3.Youtube投稿サイトで広告収入を得ている(企業案件ありで事業的規模)
職業:動画クリエイター
事業の概要:企業案件含む動画制作
開業届を提出するメリット・デメリット
会社員の副業は、通常、雑所得となりますが、開業届を行うことで、事業所得や不動産所得を選択できるようになります。ただし、事業所得なら、事業的規模で継続的な取引があるなど、事業の条件を満たす必要があることを覚えておきましょう。
ここからが本題で、開業届をすることのメリット、デメリットについてです。
開業届のメリット | 開業届のデメリット |
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経費の範囲が広がる ・青色申告なら青色申告特別控除が受けられる ・損益通算ができる ・損失の繰越しができる |
・失業手当が受けられない ・青色申告を選択すると手間がかかる |
開業届を提出するメリット
開業届を提出するメリット
経費の範囲が広がる
経費の範囲は、事業所得(開業届で選択できる事業的所得)と雑所得も基本的には同じです。若干異なる部分としては、生計を一にした親族や配偶者に支払う給与が挙げられます。
通常、身内への給与は経費にできません。しかし、事業所得であれば、白色申告なら事業専従者給与として一部を、青色申告なら届出が必要になりますが、支払った額を青色事業専従者給与として経費にできます。このように、開業届をして事業所得を選択した方が経費範囲が広がり、節税になります。
青色申告なら青色申告特別控除が受けられる
青色申告は、開業届の所得の種類にあたる、不動産所得、事業所得、山林所得にのみ認められた制度です。青色申告を選択し、複式簿記で作成した決算書類を期限内に提出すれば、最高55万円分(電子申告なら65万円分)を所得控除ができます。
損益通算ができる
損益通算は、対象の所得(事業所得、不動産所得、譲渡所得、山林所得)に赤字があった場合、損失分を総所得金額などから控除できる制度です。損益通算をすることによって、総所得金額などが圧縮され、その分、所得税を節税することができます。
損益通算の対象に雑所得は含まれませんので、開業届が必要な事業所得などを選択したほうが損益通算による節税の面でメリットがあります。
損失の繰越しができる
青色申告であれば、損益通算でも控除しきれない事業所得などの赤字があったとき、赤字分を3年間繰越せます。
繰越した分は翌年以降の所得から控除できるので、節税効果が期待できます。開業届が不要な雑所得には、損失繰越し制度はありませんので、赤字が発生したとしても翌年以降に持ち越すことはできません。
開業届を提出するデメリット
次に、デメリットを説明していきます。
失業手当が受けらない
雇用保険制度では、会社の離職したのち、過去2年間のうち一定期間の雇用保険被保険者期間があれば、基本手当を受給できるようになっています。ただし、次の就職までの安定した生活を目的とした制度なので、会社を辞めたとしても、開業届を提出したならば、自営業者となり、失業手当を受けられません。
開業届を提出していると、会社を辞めても自営業者という事実が残るため、たとえ収入が少なくても失業手当を受けられないデメリットがあります。(ここは大きな注意点ですね)
青色申告を選択すると手間がかかる
開業届を提出することのメリットとして、事業所得などでの申告ができるようになります。青色申告は青色申告特別控除をはじめ、様々な特典があるため、節税面でのメリットは大きいですが、手間がかかります。
これはどういうことかというと、青色申告で55万円の控除を受けたい場合、複式簿記による厳密な会計処理が求められるためです。副業の経理にあまり時間を割きたくない場合、収入がそこまで大きくない場合は、開業届をせず、簡便な方法で確定申告したほうが良いケースもあります。
副業の確定申告をしよう
副業によって会社員が確定申告をしなければならない幾つかの事例を示します。
- 2カ所以上から給与を受け取っており、年末調整を受けなかった給与収入と、給与所得と退職所得を除く所得金額の合計が20万円を超える場合
(給与所得の額が一定以下で、ほかの所得が20万円以下であれば申告の必要なし) - 給与所得と退職所得を除いた所得金額の合計が、20万円を超える場合
例えば、開業届で事業所得を選択している場合で、副業による事業収入200万円、必要経費100万円なら、事業所得100万円になるので確定申告が必要となります。
同じく、副業による事業収入が200万円あっても、経費が185万円の場合は、事業所得は15万円になりますので、確定申告の必要がでてきます。
ただし、所得税の申告の必要がない場合でも、所得が生じた場合は住民税の申告をする必要があります。
副業は会社にバレるかな?
副業を始めた人が気にするのがやはり、会社にバレることですよね。特別徴収の住民税の増加などを考えると、副業がバレる可能性があります。
ただし、給与・公的年金等以外の所得に対する住民税については、確定申告時に普通徴収を選択できますので、特別徴収の住民税の増加で会社にバレたくない人は普通徴収で住民税を納付すすれば大丈夫です。最近では、社員の副業を認める会社もどんどん増えてきていますので、会社が認めているか副業を始める前にできれば確認しておきたいところです。
なお、会社によっては、就業規則で副業を認めない旨を記載しているところもあります。でも、安心してください。法的に、就業規則に定められている副業禁止について、すべて有効とは認められません。本業に支障をきたしている、競合他社で副業をしているなど、会社に大きな影響を及ぼさなければ、就業規則で副業禁止となっていても、実際には副業はできるのです。
しかしながら、副業が法的に大丈夫と思われる範囲であったとしても、トラブルに発展しないためにも、事前に確認してか、常識の範囲内で副業をすることも考慮した方が良いみたいです。
事業になる場合、開業届は必要
収入がそこまで多くないケースは、基本的には開業届を提出する必要はありません。ただし、事業と認められるような規模で継続的に行っている仕事があれば、開業届を提出したほうが良いケースがあるようです。
開業届のメリット・デメリットは、この記事で説明したとおりですので、副業が事業規模になってきたと感じたら、開業届を提出するべきかどうか、同様の仲間の人に相談してみてはどうでしょうか。
(参考)
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