アルツハイマー病になりにくい食べ物を教えてくれるTEDの動画を紹介します。
タイトルは、Power Foods for the Brain (脳のためになるパワーフード)。講演者は、医師の Neal Barnard(ニール・バーナード)さんです。
日本語のタイトルは、『脳にいい最強の食べもの』
アルツハイマーになりたい人はいない
2012年の2月8日、父が亡くなりました。その何年も前から死んでいたようなものです。
父は、記憶の衰えが始まり、時間がたつうちに、自分の子供もわからなくなったのです。
性格が変わり、身の回りのこともできなくなりました。
人生で起こりうることを全部リストに書いたとき、リストの一番下に来るのは、アルツハイマー病です。
誰もこの病気にはなりたくありません。記憶をなくしたら、すべてをなくします。
脳の中にかたまりができる原因
アルツハイマー病になった人は、脳細胞の間に、アミロイドβタンパク質のかたまりが観察できます。
このかたまりが、アルツハイマー病の大きな特徴です。
80代のアメリカ人の半分がこの病気にかかります。
医者に原因を聞くと、「加齢と遺伝です」と答えます。アポリポタンパク質E(APOE)という遺伝子があります。
この遺伝子を片方の親からもらえば、アルツハイマー病になるリスクが3倍になり、両親から引き継ぐと、リスクは10~15倍あがります。
しかし、あきらめる必要はありません。
シカゴで、「健康と加齢のプロジェクト」というリサーチをし、市民が食べているものを、くわしく記録をとり、認知の変化の様子を調べました。
脳によくない油
飽和脂肪酸
鍵となる最初のものには、子供の頃、私はすでになじんでいました。
5人の子供のいる母は、ベーコンを焼いたあと、ベーコンから出た油を、びんに入れて取っておきました。
この油は、よくない油である飽和脂肪酸です。
飽和脂肪酸は、コレステロール値をあげます。
ベーコンには、この脂肪がたくさん入っています。
母は翌日、このベーコンの油を使って卵を焼いていました。
子供が全員成人できたなんて、驚きですね。
飽和脂肪酸が一番多く入っているのは、ベーコンではなく乳製品です。
チーズやミルクなど。
2番めは肉。シカゴでは、飽和脂肪酸をあまり取らず、1日13グラム程度の人もいるし、その2倍取っている人もいます。
どちらがアルツハイマーになるか調べたところ、飽和脂肪酸をとっている人のほうがリスクが高いとわかりました。
よくない油を避けていれば、アルツハイマーになるリスクは低いのです。
チーズやベーコンをたくさん食べていると、リスクは、2~3倍以上あがります。
トランス脂肪酸
ドーナツや菓子パンに入っているトランス脂肪酸についても調べましたが、飽和脂肪酸と同じ結果でした。
飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を取らないようにしている人は、心臓病にならないために、コレステロール値に注意しているのですが、脳にもよい影響があるようです。
よくない脂肪は記憶力を衰えさせる
フィンランドの研究者は、さらに一歩進めて、軽度認知障害について調べました。
軽度認知障害の人は、お金の管理や車の運転はできるし、自分の人格を保っています。ですが、時々物忘れをします。特に、人の名前や言葉を。
50歳の人を1000人集めて食事を調べ、脂肪の摂取量と、認知障害の進み具合をチェックしたところ、アルツハイマー病と同じパターンが見つかりました。
よくない脂肪をとりすぎると、記憶力が衰えるのです。
アポリポタンパク質E(APOE)という遺伝子をもっていても、脂肪のとり方の違いにより、同じ状況が見られます。
たとえアルツハイマー病の遺伝子をもっていても、悪い脂肪を避ければ、記憶の衰えを80%防げるのです。
遺伝子だけが運命を決めるわけではありません。
鉄や銅もよくない
先ほどお見せした脳の中のかたまりは、アポリポタンパク質Eですが、ほかに、鉄や銅も入っています。
食品の中に金属が入っているため、脳に入り込むのです。
私は、鋳鉄のフライパンを持っています。庭でバーベキューするとき、このフライパンを使って、外に置きっぱなしにすると錆びます。「錆びる」とは、酸化することです。
新しい1セント硬貨も、時間がたつうちに酸化しますね。
鉄と銅は、体内で酸化し、フリーラジカルという物質を作ります。
フリーラジカルは、血液の中をただよっている分子で、これが脳に入り込み、脳細胞の間をスパークします(電気的につなぎます)。
金と銅が体内に入るルート
私たちはどこから、金属を摂取するのでしょうか?
鋳物のフライパンを月に1度使うぐらいなら、何の問題もありません。ですが、毎日使うと、食べ物を通して、必要以上に鉄が体内に入ります。
銅管を使っていると、中にたまる水に銅が入り込み、それを飲むことで、必要以上に銅が体内に入ります。
肉、とくに肝臓には、鉄や銅が含まれています。「それはいいことだ」と思うかもしれませんが、鉄は、諸刃の剣です。
必要なのは、ほんの少しで、取りすぎると毒になります。
ビタミン剤からも入る
ビタミンのサプリメント(錠剤)のメーカーは、さまざまなビタミン剤に鉄や銅を混ぜています。
すでに食事から十分鉄や銅をとっているので、サプリで鉄と銅を取ると取りすぎです。
飽和脂肪酸やトランス脂肪酸だけでなく、鉄や銅などの金属も、アルツハイマー病になるリスクをあげるのです。
ビタミンEは抗酸化物質
金属のせいでフリーラジカルが生まれ、脳内でスパークするのですから、消火すればいいですね。
消火できるものが1つあります。ビタミンEです。
ビタミンEはほうれん草やマンゴー、特に、ナッツ、種子に多く含まれています。
ビタミンEは、抗酸化作用があります。フリーラジカルをやっつけるのです。
もし私の言うことが本当なら、シカゴで、ビタミンEをあまり取らない人は、アルツハイマーのリスクがあがりますが、リサーチでは、そのとおりの結果が出ました。
1日8ミリグラム、ビタミンEを取る人は、その分を食べない人に比べると、アルツハイマーのリスクが半減します。
ビタミンEを取るために、錠剤を買うのはおすすめしません。
自然には8種類のビタミンEがあり、ナッツや種子に入っています。
ビタミンEをサプリにして、「ビタミンE」と呼ぶには、1種類のビタミンEだけを入れなければならないのです。
1つのビタミンEばかり、たくさん取りすぎると、ほかのビタミンEの吸収をさまたげます。だから食べものから取ったほうがいいのです。
自然はそのように作られていて、私たちは、自然に合わせて進化してきました。
手のひらにナッツや種子をのせて、指のところまで来たら、1オンス(およそ28グラムです)で、これでだいたいビタミンEが5グラムです。
ポイントは、このまま食べないこと。塩で調味したナッツを食べ始めると、止まらなくなりますから。私はそうです。
すると食べすぎになります。
手にとったナッツをつぶして、サラダや、オートミール、パンケーキなどに入れて食べます。
ナッツや種子をおやつとしてではなく、調味料代わりに使えばいいのです。
色のついたものもよい
シンシナティ大学の研究者は、ブルーベリーやぶどうなど、色のついた食べものに含まれるアントシアニンについて調べました。
ぶどうの効果
平均78歳の、すでに記憶に問題のある人を集め、グレープジュースを1日、1パイント(およそ473cc)飲んでもらいました。朝と夜にわけて。
すると3ヶ月後には、みなの記憶力がよくなりました。
ぶどうは、いつも太陽や雨風にさらされていますが、強力な抗酸化物質であるアントシアニンが守っています。
ぶどうを食べると、アントシアニンを取れるので、脳の状態がよくなります。
ブルーベリーの効果
アントシアニンはブルーベリーにも入っています。
やはり記憶に問題のある患者に、3ヶ月ブルーベリージュースを飲んでもらったところ、記憶が向上しました。
色鮮やかなものを食べるといいのです。
スーパーの青果物のコーナーで、目立っている食品には、カロチン、リコピン、アントシアニンが豊富です。
人参、トマト、グレープ。
脳は、そういう食品はきれいで魅力的だと認識するので、人は引きつけられるようにできています。
マイプレート(おすすめの食事)
2009年、私が所属する「責任ある医療のための医師委員会」は、農林省に、食品のピラミッド(人々に推奨する食事のモデル)をやめるよう申し立てました。
このピラミッドには、肉や乳製品も含まれています。肉や乳製品を食べない人のほうが、食べる人より、健康なのに。
それに、みな、お皿を使って食べ、ピラミッドから食べる人なんていません。
だから、皿に、果物、穀類、豆類、野菜を乗せたかたちを提案しました。こうしたものを毎日食べるべきです。
2009年に提案しましたが、音沙汰がなかったので、2011年に政府に訴えを起こしました。
農林省を訴えたのです。返事がほしかったので。
すると2011年に、政府はマイ・プレート(MyPlate)という推奨食事モデルを出しました。
私たちが提案したものと似ています。
果物、穀物、野菜、タンパク質、それに乳製品となっています。
タンパク質は肉とは限りません。豆、トーフ、ナッツなども入ります。
政府のガイドラインから肉のグループはなくなりました。
乳製品には、豆乳も入っています。
運動のメリット
アルツハイマー病を防ぐ方法が、もう1つあります。
運動です。
イリノイ大学の研究チームが、120人の成人に、週3回、速歩きをしてもらい、1年後、脳をスキャンしたところ、海馬(記憶を司る部位)が大きくなっていました。
海馬は年をとるにつれて、小さくなりますが、それが止まり、逆に少しずつ大きくなったのです。
イリノイ大学のおすすめは、週に3回、10分のウォーキングから始めます。
翌週は、それを15分、次の週は20分と5分ずつのばし、最終的に40分にします。
週に3回、40分、さっさと歩けば記憶が向上し、脳が縮むことを防げるのです。
まだ間に合う
時間を戻して、父にこう言えたらいいと思います。
「すごく大事なことを発見したよ。食事を変えればいいんだ。チーズやベーコンはいらない。
ほかにも、健康的な食べ物がたくさんある。カラフルな野菜と果物を食べよう。
スニーカーをはいて、一緒に運動しよう」、
ですが、叶いません。父にとっては遅すぎました。
でも、私や皆さんはまだ間に合います。学んだことを取り入れ、脳を守ることができます。
そうすれば、もう少し長く、家族が一緒に過ごせるのです。
//// 抄訳ここまで ////
単語の説明など
Beta-amyloid protein アミロイドβタンパク質
APOE-epsilon4 allele アポリポタンパク質E(APOE)
saturated fat 飽和脂肪酸
trans fats トランス脂肪酸
脳と健康に関するほかのプレゼン
腸はどのように脳をコントロールしているのか? 腸の状態が脳の病気を予防する(TED)
肉はやめて野菜を食べろ。マーク・ビットマン「我々の食料に関する課題」(TED)
脳の健康を意識して日々を充実させる
「認知症になりたくないなあ」、なんて心配をするのは、50才を過ぎた人だと思います。
20代、30代、40代の人は、自分が年をとっていろいろな病気になっていつか死ぬなんてことは、普段はまったく意識していないでしょう。
若い人で、「あまり長生きしたくない、60才ごろ死にたい」などと言う人も、老後をリアルに想像できていないと思います。
そんな若い人にも、バーナード医師が紹介している脳にいい食事はおすすめです。
– 飽和脂肪酸、トランス脂肪酸を避ける(乳製品、肉、ジャンクフードを取りすぎない)
– 鉄と銅をむやみに摂取しない
– 食べ物からビタミンEをとる(ナッツや種子、ほうれん草etc. ビタミンEはいろいろなものに入っています)
– カラフルな野菜や果物を食べる
– 運動する(週に3日、40分の速歩き)
ふだん、情緒が不安定な人、つまり、みょうに落ち込んだり、イライラしたり、うつうつとしたりする人は、あまり脳が健康ではないのです。
そのような人は食事をおろそかにしがちです。
ストレスのせいで、体に悪いもの(甘いもの、アルコール、加工食品)を大量摂取したり、逆にちゃんと食べなかったりします。
その極端な形が摂食障害です。
脳によくないものを食べていると、ますます、脳の機能が衰えて、さらに不安やストレスが増えて、ますます、変なものばかり食べたり、肝心のものを食べなかったりして、ますます脳の機能が衰えます。
負のサイクルにはまってしまうのです。
不安が大きい、ストレスが多い、やたらと買い物ばかりしている、SNSや、YouTube、ゲームの課金が止まらない止まらない(依存ぎみ)。
こんな状態のときは、一度、食事を見直すといいでしょう。
人は食べたものでできているので、脳にいいものを食べれば、気持ちも安定します。
毎日の10分の早歩き走行で、脳の記憶を支配する海馬という場所が大きくなります。ですから、運動も忘れずに。
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